2025.10.31
フォレンジックとは
フォレンジックとは、電子鑑識と訳され、デジタル機器に残る痕跡を科学的に分析し、事実関係を明らかにする技術や手法を指します。もともとは警察の犯罪捜査や裁判証拠の分析に使われてきた技術ですが、現在では企業の情報セキュリティ対策や内部統制の一環としても活用が広がっています。
最近では、企業活動のあらゆる場面でデジタル化が進んでおり、物流業界もその1つです。スムーズに業務を進めるために必要不可欠な配送管理システム、車両の位置情報、倉庫内の在庫データ、顧客とのやり取りまで、業務の多くがデジタルデータとして記録・保存されています。便利で効率的な一方で、情報漏えいや不正アクセス、データ改ざんなど、見えにくいリスクが増えているのも事実です。
今回のコラムでは、フォレンジックの基本的な考え方やフォレンジック導入のメリット、デメリット、実践的なポイントなどを解説していきます。
フォレンジックとは

フォレンジックとは、デジタルデータを使って不正や事故などの原因をつきとめることです。物流業界では、配送管理システム、車両の位置情報、倉庫内の在庫データ、顧客とのやり取りなど多量なデジタル情報が日々作られています。これらのデータは業務効率化の向上に役立っていますが、サイバー攻撃や内部不正のリスクもかかえています。
また、デジタルデータを利用することで、下記のような問題が起こると考えられています。
・不正アクセスによる配送データの流出
不正アクセスにより顧客情報や配送ルートが漏れれば、取引先との信頼関係を損なうだけでなく、顧客満足度の低下や企業ブランドにも深刻なダメージを与えます。
・従業員による内部不正
業務用端末からの不正持ち出しや、勤怠データの改ざんといった行為は、発覚後の調査が難しいのが特徴です。しかし、フォレンジック調査を行うことで、客観的な証拠に基づく事実確認が可能になります。
・サイバー攻撃の被害解析
万が一、ランサムウェアなどの攻撃を受けた場合、感染経路や被害範囲を正確に把握しなければ、復旧後も同様の被害が再発してしまいます。フォレンジックは、再発防止策を立てる上で欠かせない手段です。
フォレンジック調査の手順

フォレンジックの最大の目的は、“何が、いつ、どのように起きたのか”という事実を正確に再現することです。
そのため、フォレンジック調査では次のような手順が重視されます。
1.証拠保全
調査対象となるパソコンやサーバー、スマートフォンなどのデータを改ざんされない形で保全します。データコピーの際には「ハッシュ値」と呼ばれる電子的な指紋を使い、原本との一致を保証します。
2.解析
専用ツールを用いてログやファイルのタイムスタンプ、通信履歴、削除されたデータの痕跡などを解析します。これにより、アクセス経路や操作履歴、不正行為の有無を明らかにします。
3.報告・再発防止策
調査結果を分かりやすくまとめ、必要に応じて社内規定の見直しやセキュリティ対策の改善につなげます。
フォレンジック導入のメリット

フォレンジック導入のメリットには下記のようなものがあります。
・早期対応と被害最小化
インシデントが発生した際に早急に調査を始めることで、被害の拡大を防ぎ、原因を特定できます。
・法的リスクへの備え
万が一訴訟や取引先からの損害賠償請求が発生しても、フォレンジックで収集した証拠があれば、客観的な立場で説明責任を果たせます。
・信頼性の向上
情報管理体制が整っている企業は、取引先や顧客からの信頼が厚くなります。フォレンジックを活用することは、結果的に企業価値の向上につながります。
フォレンジック導入のデメリット

フォレンジック導入のデメリットには下記のようなものがあります。
・コストが高い
専用ツールの導入費用は高額で、導入後も継続的なライセンス費用や保守費用が必要です。
・高度な専門知識が必要
法的知識やIT知識、調査スキルが必要。内部での育成は難しいため、外部委託になる可能性が高いです。
・システム不可、業務への影響がでる
調査のため、業務停止やサービス遅延が起こる可能性もあります。
物流現場での実践的なポイント

フォレンジックは専門的な技術分野ですが、日常的に意識できることもあります。
ログの保管期間を明確に設定する
問題発生時に過去の記録が消えていては、調査が難しくなります。
重要データは一定期間、バックアップを含めて安全に保管することが大切です。
端末やシステムのアクセス権限を見直す
必要最小限の権限付与を徹底することで、内部不正の芽を未然に防ぐことができます。
定期的なセキュリティ教育を実施する
フォレンジック技術そのものよりも、日常の意識改革こそが最大の防御策です。
社員一人ひとりがデータの重要性を理解し、適切に扱うことが重要です。
まとめ
フォレンジックは、物流業界の安定した運営を支えるための膨大なデジタルデータの信頼性を守る重要な役割をになっています。
トラブルが起きてから慌てて調査を行うのではなく、普段からフォレンジックを意識した情報管理体制を整備しておくことが重要です。デジタルデータが業務の基盤となった今、フォレンジックは決して専門家だけの技術ではなく、企業の信頼性と顧客満足度の向上、そしてトラブルを根本的に解決し再発させないためにもあらゆる企業が身近に取り入れるべき重要なものです。